ああ、傷ついていたんだ、と気づいた


青天の霹靂って言葉、こんなときに使うのかもしれない。

そう思う出来事があった。

その日は土曜日で、おなかの痛みが続いていた子どもを内科に連れて行った。

病院では、痛みの原因を探るための採血とエコー検査があった。小さな不調があっても、滅多に熱も出さないため、採血をするのは赤ちゃんの時以来だった。

その採血の際、子どもの具合が悪くなり一瞬意識が飛んでベットに運ばれたのだ。幸い、しばらく横になったら安定し、子どもは歩いて待合室に戻ってきた。

診察室に呼ばれ、おなかの痛みはガスが溜まっているからだと説明される。

それよりも白血球やヘモグロビンの数が異常に少ないことを指摘された。

私たち親子はひどく驚いた。おなかは痛かったが、発熱なんてしておらず原因が分からないため、月曜日に私だけが来るように言われた。

私だけ?子どもはこなくていいの?まあ、結果聞くだけだからそんなものだよね・・・。

今はネットでなんでも調べられる。白血球の数値が異常に低い場合の最悪の事態を想定してしまう。じりじりと週末が過ぎていく。できるだけ、いつもと変わらないように過ごそうと心がける。

月曜日。緊張して病院へ向かうと

「白血病か膠原病の可能性があるので、血液内科のある病院へ紹介します。早い方がいいので、明日か明後日で」

と言われた。

病院を後にし、車に乗り込む。仕事へ行かなければならない。大丈夫だと自分に言い聞かせるが、あふれ出てくる涙を抑えるのが難しかった。でも、まだ何もわかっていないのだ、そう考え、その日は必至の思いで泣かずに仕事をこなした。

翌日は仕事も学校も休み、紹介された病院へ向かう。最悪の事態は避けたい気持ちでいっぱいだったが、覚悟もしていた。病院へ向かう車中の空気は最悪だった。でも、泣き顔を子どもに見せるわけにはいかないと思っていた。

紹介された病院で、再び採血し結果を聞きに診察室へ向かう。その時点で半日かかっていた。これから、すぐ入院と言われるかもしれない。せめて、治療法があると言ってほしい。そう願いながら診察室のドアを開ける。重い気持ちを抱え覚悟を固めて椅子に腰を下ろす。

「異常なしでしたよ。全部の数値、問題ないです。健康です。」

えっ、・・・!?

「最初の病院での採血で時間がかかったでしょう?」

はい・・。

「採血の際、時間がかかると途中で詰まって数値が低くでることがあるんですよ。」

えっ、えー・・・。!?でも、採血の際倒れたんですが・・。

「ええ、採血が上手くいかないと、その刺激でくらっとすることもあるんですよ。貧血を起こしたことないでしょ?」

一年前くらいに電車の中で気分が悪くなったことがあります。

「ええ、人が多いところでそんな風になることはありますね。」

えっ、えー・・・。

「心配されたでしょう。大丈夫ですよ。」

えっ、えー・・・。

安心して、涙が再びあふれ出る。

子どもは死ぬ覚悟をしていたと言っていた。それなのに、いつもと変わらない様子でこの4日間を過ごしていたのだと知る。それを知ってまた、泣けてくる。

最初の病院が単に、採血が下手だったってこと?それで、こんなにも絶望的な時間を過ごしていたということ?発熱していない状態を考慮して、採血不備を疑うことはできなかったの?

でも、結果が良かったから良かったんだよね。最初の病院のお医者さんも、看護師さんも感じがいい人だったし。健康だったんなら、それでいいんだよね。

そう納得したつもりだった。

でも、なんだか、モヤモヤが消えない。

翌日は気が抜けたのか、子どもも私もずいぶん疲れて一日を過ごした。運動もしていないのに、筋肉痛もある。

テスト前だった子どもは、勉強もできていなかった。テストの結果はきっとさんざんだろう。受験生だから、本来は一日だって無駄にできないのに、あれから、まともに勉強できていない。

受診や移動や駐車場代などで1万円くらいかかった。

仕事を休んだので1万円強給料が減った。

怒りたいわけじゃない。でも、なんだか、モヤモヤする。

なんでだろう・・。

ああ、大きな病気だと言われて私はショックで傷ついたのだ。

その傷が癒えるのには時間がかかっているのだ。

青天の霹靂はそれだけ衝撃が大きい。私たち親子はそのせいでずぶぬれになり、服や乾くのにずいぶん時間必要なのだ。

病院の待合室で、泣かないように持って行ってた本。

漢方か。

頼ってみてもいいのかもしれない。でも保険がきかないから高いな。

健康って、貴重なものだったんだな。