たとえば、人前で話すとき。あるいは、冷水器で水を飲むとき。机にうつ伏すとき。歯磨きをしているとき。
役割のない手の置き場に困ることがある。置き場に困ったときは、組んでみたり、腰に当ててみたりしてしまう。それをせずにいると、なんとなく落ち着けずソワソワしてしまう。
手に比べると足はあまり困らない。私は足を組む習慣をやめたけれど、座っている足に役割を与えなくとも、ソワソワすることはない。
なぜ、手は組んだり握ったり置いたりしないと落ち着かないのだろう。それが結構な不思議だ。
もしかしたら、人間もかつては四足歩行だったことが関係しているのかもしれない。
四足歩行だったときの手は、だいたいいつも地面に触れていたはずだ。今みたいに、肩から下にぶら下がっている状態ではなかった。
ヒトが二足歩行になったのは700万年前だが、ホモサピエンスが生まれたのはたった20万年前である。類人猿は2300万年前には生まれていたことを考えると、ヒトは二足歩行にまだ慣れていないのかもしれない。だから、地にも木にも触れない手をこんなに持て余してしまうのだ。
そんなことを考えながら、今日も左手を腰に当てて歯を磨いている。