青山美智子『月の立つ林で』を読み終えた。
本を閉じた瞬間、胸の奥にふわりと白い靄がかかったような、泣いた後のような気持ちが残った。物語の中の人たちが抱えていた痛みや優しさが、ゆっくりと自分の中に沈んでいく。その余韻のまま、しばらく動けなかった。
人は人の中で生きている。
だからこそ、困らされたり、悲しくなったり、イライラしたりする。誰かの言葉に傷つき、誰かの態度に心がざわつく。けれど同時に、助けられたり、救われたり、思いがけず温められたりもする。人との関わりは、面倒で、厄介で、でもどこか愛おしい。今日読んだ物語は、その当たり前のことを、静かに思い出させてくれた。
私は仕事で人とたくさん関わる。
雑談も必要とされれば応じるし、役員や係を頼まれれば引き受ける。人から好かれることも多いと思う。表面的なコミュニケーションは、むしろ得意なほうだ。
でも、プライベートとなると話は別だ。
一人になる時間ができたら、できるだけ一人でいたい。プライベートな時間のときは、家族と話すのさえ緊張することがある。自分でも不思議に思うほど、距離を置きたい気持ちが生まれる。
特に「嫌いだ」と感じた相手とは、近づくことすら苦痛になる。近くに寄られるだけで、身体が拒否するような感覚がある。
これは性格だけではなく、育った環境も影響しているのだと思う。
父は、休日に子どもが出かけることを良く思わない人だった。そのせいで、友だちと遊びに行く経験が、大学生になるまでほとんどなかった。母は病気の影響もあったのか、ヒステリックで、家族以外の人とうまく付き合う姿を見たことがない。家の中はいつも緊張していて、外の世界は遠かった。
そんな環境で育った私は、根本のところで「人が苦手」なのだと思う。
人と関わるとき、どこかで身構えてしまう。嫌われないように、迷惑をかけないように、空気を読み続ける癖が抜けない。だからこそ、仕事ではうまく立ち回れるのに、プライベートでは疲れてしまうのだろう。
それでも私は、人の中で生きている。
助けられた経験も、救われた瞬間も、確かにある。誰かの何気ない言葉に支えられた日もある。今日読んだ物語の登場人物たちのように、私もまた、誰かに影響され、誰かを支えながら生きているのだと思う。
人が苦手でも、人の中で生きている。
その矛盾を抱えたまま、私は今日も誰かとすれ違い、誰かと話し、誰かに心を動かされる。
そしてまた、一人の時間に戻って、自分の輪郭を確かめる。
本を閉じた午後のぼんやりした光の中で、そんなことを考えていた。
