言葉を選び取る力


「ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は」

穂村弘

大人になってこの短歌に出会ってから、短歌に興味を持つようになった。

それからいろんな短歌を読むようになり、好きな歌が増えていった。

忙しくて疲れる。もう疲れきったな、もう頑張れないなと思ったときに思い出す歌がある。

「大ぞらを静かに白き雲はゆくしづかにわれも生くべくありけり」

相馬御風

この歌を思い出すことで、肩の力が抜けて自分を少し休ませることができるようになる。

あるいは、空をみあげ、この歌を思い出したときに「ああ、自分は今ちょっとあくせくしすぎているな」と気づかされもする。

大きな失敗をしてすごく落ち込む。もう、やってしまったことはどうしようもないけれど、今の自分のこの気持ちを抱えきれないと思っているときに思い出す歌もある。

「シースルー エレベーターを 借り切って 心ゆくまで 土下座がしたい」

斎藤斎藤

「ああ、私は謝りたいんだ。ものすごく謝りたかったんだ」と知る。本当にシースルーエレベータを借り切って土下座ができればいいのに、と共感しやりきれない思いが少し救われる。

なんだか毎日大変だと思うときがある。明日を迎える勇気がでない。そんなときに眺めるだけで明日に立ち向かう勇気をくれる歌がある。

「レーズンパンのレーズンすべてほじりだしおまえをただのパンにしてやる」

戸田響子

やろうと思えば私はなんだってできるかもしれない。目の前の困難も、もしかしたらレーズンパンのレーズンを取り出すくらいにたやすいのかもしれない、そう思えるようになる。今日はとりあえず寝よう。寝たら明日は立ち向かう元気があるかもしれないのだから。

そんな風に心に寄り添ってくれるような歌にたくさん出会える本。

おススメ対象 小学生~大人

現代歌人115人各20首が集められた一冊で、どこから読んでもいいし、どこを読んでも読みごたえがある。

私の本は付箋だらけで、付箋の位置は時と場合で変化する。

一度全部目を通したハズなのに、何度でも「こんな歌あったんだ」と驚いてしまう。その時々、自分に響く歌が違うのだ。何度開いても新しい驚きがある。お得な本だと思う。

57577。31音。

たったそれだけの言葉で、私は勇気づけられたり慰められたりする。

57577。31音。

たったそれだけを並べればいいのに、私には「これは名歌だ」と思える歌が詠めない。

言葉を選び取る力を持つ人に憧れる。

そんな人になりたいがために、この本を開くこともある。

いろんな思いに寄り添ってくれる本なのだ。