かつて団地に住んでいたことがある。
駅近で、国道も近く、たくさんの人が行きかっていた場所に建っていたけれど、団地の敷地内は比較的静かだった。
藤野千夜『団地メシ!』を読み、団地に住んでいた日々を思い出した。
読みやすい物語。それぞれの 団地にある小さなお店のご飯がどれも美味しそうで、 とくにフルーツアイスティーは、読んだ瞬間に「作ってみたい」と思った。
団地は、住んでいる人のカラーがどこかにじみ出ている。
たくさんの人が暮らしていて、普段はほとんど関わりがないはずなのに、 廊下の匂いや、夕方の光の入り方、ベランダの洗濯物の並び方から、 その場所に住む人たちの気配が伝わってくる。
かつて住んでいた団地は、『団地メシ!』で花とおばあちゃんがめぐる団地と同じように、 一階に小さなお店がいくつかあった。
八百屋さんと中華料理屋さんはよく利用した。 買い物をして、すぐに家に戻れる距離感がとても便利だったことを覚えている。 他にも美容室や、ハラル対応の食材屋さんが入っていて、 団地の中に小さな“世界”があるようだった。
ただ、団地の商店は駐車場のスペースが限られているから、 外から来る人には少し利用しにくい面もある。 駅近の団地じゃないと、なかなか利用しづらいだろう。 その“内と外”の曖昧さも、団地らしさなのかもしれない。
物語の中で、花が「高校を辞める」と言い出す場面がある。 そこを読んだとき、胸の奥がざわっとした。 それは、この問題が我が家でも現実に起きたことだったからだ。
子どもが高校へ行けなくなったとき、最初はどうしたらいいのか全くわからなかった。 辞めるしかないのだろうかと思った瞬間、目の前がすっと暗くなるような絶望感があった。
でも、いくつか通信制の高校を見学して回るうちに、 ある先生が教えてくれた。
「辞めてしまうと、入り直すのが難しくなります。 ぎりぎりまで籍を残したまま、転校の手続きをした方がいいですよ」
その一言で、道が開けた。 結果的に、驚くほどスムーズに学校を変えることができた。
もしあのとき、その先生の言葉を聞いていなかったら、 高校を辞めてしまった後、次にどうすべきなのか、 きっと長いあいだ頭を抱えていたと思う。
通信制の学校には、いろんなタイプがある。 そして、学校へ通えなくなった子でも無理なく卒業できるところが多い。 その事実を知ったとき、私は本当に驚いた。通信制の高校があることは知っていたけれど、自分には関係ないと、何も知ろうとしていなかったことに気がついたのだ。
花の選択を読んで「ちょっと待って」と思ったのは、 あのときの自分の気持ちが重なったからだ。 辞めるか続けるかの二択ではなく、 その間にも道が存在することを、 知らせたくなった。
花の選んだ選択がなんであれ、その先もたくさんの岐路がある。その先も、どの道を選ぶのかは、自分で決め続けることができる。
