子どものころ、庭先で父がよくバーベキューをしてくれた。
というと、生活に余裕がある家庭のように聞こえるかもしれないが、我が家は決して裕福ではなかったし、お隣が500mほど離れていて、コンビニなんて5キロ先くらいにしかないような田舎に住んでいた。
バーベキューコンロなんて便利なものは所持しておらず、錆びた鉄板の上にブロックを積み、その上に網を乗せただけの簡単なものがその代わりだった。
我が家のバーベキューの定番は、豚バラとネギを串に刺したもので、それを大量に作るのは私たち子どもの役目だ。
豚バラを串にさすのはなかなか大変である。
厚さは5mmほどの豚バラは脂で滑って固定しづらく、串で何度も手を刺しながらの作業になる。ネギの向きと豚の向きを揃えないとうまく焼くことは出来ないし、先の方に隙間があると串が燃えてしまい、焼いている途中でせっかく刺した串がバラバラになることもあった。
一番手前をネギにしてしまうと、ネギにうまく火が通らす、辛いままネギを食べなければならない。そんな時はネギだけ串に刺しなおして、もう一度焼かねばならなかった。ベストなバランスは「豚バラ+ネギ+豚バラ+ネギ+豚バラ」だ。
豚バラとネギの串が美味しかったこともあって、その他に何を焼いていたのか、もうあんまり思い出せない。
一通り肉を焼き終わったあたりで、近所に住むいとこが「白おにぎり」を持ってきたくれることがあった。いとこと一緒に住んでいる、祖母が握ったおにぎりだ。真ん中に、やっぱり祖母が漬けた大きくて酸っぱい梅干しが入っている。
お重いっぱいに握られていたおにぎりは、何の変哲もない「白おにぎり」だったけれど、とてつもなく美味しかった。
さんざん肉を食べていたはずなのに、2個か3個は食べてしまえた。4個食べることもあった。
あれからたくさんおにぎりを食べてきたけれど、祖母が握ったおにぎりが、今でも一番おいしいおにぎりだ。
豪華なご飯も、変わった料理も、見慣れない食材も楽しいけれど、心を満たすようなご飯は「おにぎり・味噌汁・卵焼き」みたいなシンプルなご飯だと思う。
おススメ対象 高校生~大人
シンプルなご飯は、シンプルな分、誰がどう作るかでその美味しさが変わってくる。
疲れたり、元気が出ないときに、こんな料理屋さんがそっとご飯を届けてくれるとどんなにいいだろうか。
私のところにもゴリラが来てほしい。
でも、来てくれないうちは、自分で少し丁寧にご飯を作ろう。手の込んだ料理ではなく、作りなれた簡単なご飯を。
ああ、祖母が作った白おにぎりが懐かしい。