きっかけはカレンダー


その姿に目を奪われた。普段は素通りしてしまう掲示板の小さなカレンダーに、それは載っていた。

なんて美しい配色と佇まいだろう。これがこの世に存在する生き物だということを、私は知らずにぼんやりと生きてきてしまっていた。

それは大きな衝撃だった。神々しいという言葉は、この生き物にこそ使うべきなのだと思った。

掲示板に張られた小さなカレンダーに映っていたのは「アカアシドゥクラングール」だった。よこはま動物園ズーラシアにいる個体の写真であり、印象的なショットだった。

「アカアシドゥクラングール」は、ラオス東中央部から南東部、ベトナム北部と中央部、カンボジア北東部に生息するリーフモンキー(食物がもっぱら葉であることからそう呼ばれる)の一種であり、絶滅危惧IB類に分類される。

人間の起こした戦争で、生息域の大半が失われてしまったサルだという。2023年現在、日本では「よこはま動物園ズーラシア」と「徳山動物園」で飼育されている。

「アカアシドゥクラングール」は世界で一番美しいサルと呼ばれている。確かにその5色の体毛はよく考え抜いてデザインされたような、目を見張る配色になっている。フワフワで触り心地が良さそうに見える胴体は灰色、首とすねは赤、肩と腰と手足は黒、前腕と顔と尻と尾は白、顔は淡いオレンジ。どうして、こんな配色になったのか不思議でしかたがない。

一瞬で魅せられてしまった。

「アカアシドゥクラングール」のことを調べているうちに『世界で一番美しいサルの図鑑』に出会う。

迷わず購入したこの図鑑には様々なサルが載っていた。

なんて多様で豊かな生き物なのだろう。掲載されている200種近いサルが、どれも魅惑的で、今まで知らなかった種が結構いることに驚いてしまった。同じ霊長類に属していながら、サルはヒトよりはるかに美しいと感じてしまう。ヒトは進化の過程で、文明を得る代わりに美しさを手放してしまったのかもしれない。

そして、そのサルたちの大半が絶滅危惧種に分類されている事実も記載されている。サルたちが人によって追いやられているという事実に、やるせない思いになる。

美しい写真と、詳細な説明。扱いやすい軽さとめくりやすい紙質。この値段でいいのだろうかと思えるくらい、手元に置いておく価値のある本だ。

動物園で実物をみたことがあるサルも載っているが、かつてみたその姿よりも、生き生きとした生命を感じられる写真が満載である。